* Story *


 てのうちにあるもの

フェイダーがルーウェンと名乗るエダイ・ケイブラと邂逅してから二ヵ月後。



「兄貴?」
ガランからの知らせを伝えるためにフェイダーの部屋に行ったイルダは、中に気配がないことに気付いた。部屋の中をひととおり見回して、溜息をつく。
「なんだ、いねえじゃん」
先の闘争の後から、なにかにつけて物思いにふけるようになったフェイダーは、以前に増してよく姿を消す。能力のことでなにかあるのだとか、秘密裏になにか行っているのだとか、グループ内でも噂されていた。
イルダはそんなフェイダーに、これまでは感じられなかったものを感じていた。そして兄の以前との違いに周りが気付いていないことに驚き、そしてどこかで安堵している。
変わらないのだ。
これまでも、そしてこれからも。そう信じていたい。それは個人的な望みではあった。
「…ま、いっか。急ぎじゃねえって言ってたしな」
そういって彼は踵を返した。そのまま、すぐに部屋を出る。来た方に向かって歩き出すと、その背に声がかかった。
「イルダ?」
振り向かずともその声の持ち主はわかった。
「兄貴、どこ行ってたんだよ」
「すまんな、ちょっと考え事をしていた」
「…またかよ…あ、そうだ。ガランから伝達だぜ。”奴らが都市に入ってきた”だとさ」
その言葉に、フェイダーは眉をぴくりとさせた。
「…そう、か…」
ぎこちない返事だ。
「奴らってのは、例の謀反人だろ?何でいまさら都市に介入してくるんだ?」
「それは、俺に聞かれてもわからないな…何か目的があるのかもしれないし、そうでもないかもしれない」
言いつつも、フェイダ−の中には確信があった。
ないわけがない。
目的があって、その故に彼らは行動しているのだ。
十年前も、そして今も。おそらくはそうなのだろう。
今回の目的が、もし、自分のことであるのならば。フェイダーはそれを危惧していた。
予想があたりなら、周りに被害を出すかも知れぬ。自分以外はみな、ケイブラではない普通の人間なのだ。
もし十年前と同じように彼らがふるまうとしたら、グループは相当な被害をこうむるだろう。ではそれを避けるにはどうすればよいか。フェイダーの思案はそこへ集中していた。
「なあ…俺ら、このままだよな?都市は、変わらないよな?」
イルダが突如、言った。核心を突かれたような問いかけ。
見透かされていたか。
「…わからない。大丈夫と言い切る自信は俺にはないよ」
苦笑したフェイダーの表情は翳っていた。
独り言のように呟かれたその言葉は、亀裂の入った壁に吸収されて力なくかき消えた。
眼帯で隠れていない赤の瞳だけで虚空を見上げた彼の、青灰色の長い髪が揺れた。


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